東京地方裁判所 平成11年(ワ)8775号 判決
原告 バンコ・サンタンデール・セントラル・イスパノ・エス・エイ
右代表者 マティアス・ロドリゲス・インシアルテ
原告 ラ・ウニオン・レシネラ・エスパニョラ・ソシエダ・アノニマ
右代表者 ホアン・イグナシオ・ルイス・デ・アルダ・モレノ
右両名訴訟代理人弁護士 岡田和樹
同 高橋融
同 鈴木周
右訴訟復代理人弁護士 林幹子
被告 三井不動産投資顧問株式会社
右代表者代表取締役 三野村和雄
被告 三井不動産株式会社
右代表者代表取締役 岩沙弘道
右両名訴訟代理人弁護士 菊地裕太郎
同 玉木雅浩
同 鈴木大祐
同 北原潤子
被告 日本ランディック株式会社
右代表者代表清算人 坂井秀行
右訴訟代理人弁護士 片山英二
同 北原潤一
同 服部誠
被告 株式会社ランディックビルディング
右代表者代表清算人 忠内幹昌
右常置代理人弁護士 稲田龍示
主文
一 原告らの本訴請求中、被告三井不動産株式会社が被告日本ランデイック株式会社及び被告株式会社ランディックビルディングに対して優先的に別紙物件目録記載の不動産を買い受ける権利を有することの確認を求める部分についての訴えを却下する。
二 原告らの被告三井不動産投資顧問株式会社及び被告三井不動産株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一原告らの請求
一 原告らと被告三井不動産投資顧問株式会社との間に別紙物件目録記載の不動産につき左記内容の投資顧問契約が存在することを確認する。
1 被告三井不動産投資顧問株式会社は、原告らに対し、右不動産に関する情報を提供するなどして、原告らが右不動産を取得するための助言をする。
2 原告らは、被告三井物産投資顧問株式会社に報酬を支払う。
二 被告三井不動産株式会社が被告日本ランディック株式会社及び被告株式会社ランディックビルディングに対し、優先的に別紙物件目録記載の不動産を買い受ける権利を有することを確認する。
三 被告三井不動産株式会社及び被告三井不動産投資顧問株式会社は、原告らに対し、連帯して五〇億円及びこれに対する平成一一年五月二〇日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、日本国内の不動産に投資をしようとした原告らが、投資顧問契約を締結した投資顧問会社及びその親会社である不動産会社に対し、右投資顧問契約がなお存在することの確認を求めるとともに、不動産投資にかかる入札から原告らを不当に排除したなどとして不法行為等に基づく損害賠償を求め、右入札の主催者らを含めた被告らに対し、右不動産会社が入札の対象となった不動産を優先的に買い受ける権利を有していることの確認を求めた事案である。
二 前提となる事実
1 当事者
(一) 原告バンコ・サンタンデール・セントラル・イスパノ・工ス・エイ(旧商号は、バンコ・サンタンデール・エス・エイ。以下「原告バンコ・サンタンデール」という。)は、スペイン国に本店を置き、銀行業を行っている会社であり、原告ラ・ウニオン・レシネラ・エスパニョラ・ソシエダ・アノニマ(以下「原告ラ・ウニオン」という。)は、原告バンコ・サンタンデールの子会社である(弁論の全趣旨)。
(二) 被告三井不動産株式会社(以下「被告三井不動産」という。)は、不動産業を行う株式会社であり、被告三井不動産投資顧問株式会社(以下「被告三井投資顧問」という。)は、不動産投資に対する情報提供などを業とする株式会社であって、被告三井不動産の子会社である(弁論の全趣旨。以下被告三井不動産と被告三井投資顧問とを併せて「被告三井不動産ら」ともいう。)。
(三) 被告日本ランディック株式会社(以下「被告ランディック」という。)は、株式会社日本長期信用銀行(以下「長銀」という。)の関連会社で、不動産の売買、賃貸借等を目的とする株式会社であったが、平成一一年五月三一日に株主総会の決議により解散し、同年六月三日に特別清算手続が開始された。被告株式会社ランディックビルディング(以下「被告ランディックビルディング」という。)は、不動産の売買、賃貸借等を目的とする株式会社であったが、平成一一年五月二八日に株主総会の決議により解散し、同年六月三日に特別清算手続が開始された(弁論の全趣旨)。
2 被告ランディックによる不動産の売出し
平成一〇年一〇月に長銀が破綻したことに伴って、被告ランディックとその関連会社の経営も極めて困難になり、被告ランディックは、同社及び同社の関連会社が所有する不動産を売却することを計画し、その買手を入札によって決定することとしたが、被告三井不動産は、被告ランディックが入札を実施することにした別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を含む二四の不動産(以下「本件ポートフォリオ」という。)について、被告ランディックから右入札(以下「本件入札」という。)に参加できる機関投資家三社のうちの一社に選ばれた。そこで、被告三井不動産の子会社である被告三井投資顧問は、海外の投資家を中心に、これら不動産の買取りのため投資家を組織化してコンソーシアム(以下「本件コンソーシアム」という。)を編成することを計画し、原告らにも右コンソーシアムへの参加を呼びかけた(甲一の1、2、弁論の全趣旨)。
3 秘密保持契約と投資顧問契約の契約成立
原告バンコ・サンタンデールは、被告三井投資顧問の呼びかけを受け、本件不動産の購入方を検討し、その購入のため、平成一一年一月二二日、被告三井投資顧問との間で、秘密保持に関する契約(以下「本件秘密保持契約」という。)を締結し、次いで、原告らは、同月二七日、被告三井投資顧問との間で、投資顧問契約(以下「本件投資顧問契約」という。)を締結した(甲二の1、2、弁論の全趣旨)。
4 被告三井投資顧問による契約終了通知
本件ポートフォリオについての入札の期日は、平成一一年二月一五日と定められていたが、被告三井投資顧問は、右同日、原告らに対し、本件入札に関し、原告らの代理をすることを終了させることにした旨の通知(以下「本件通知」という。)をした(甲九の1、2、弁論の全趣旨)。
三 争点
1 争点1
本件投資顧問契約は、本件通知により終了したか。
(被告三井不動産らの主張)
(一) 本件投資顧問契約について
本件投資顧問契約の内容は、入札管理業務、デューデリジェンス業務、締結業務、資産管理業務である。このうち、入札管理業務とは、売主側である被告ランディックの提示する最終入札条件を承諾し、被告三井投資顧問が行ったデューディリジェンス業務(事前調査)の結果を踏まえた最も望ましい入札価格戦略に応じることに合意した投資家によってコンソーシアムを編成することであり、本件投資顧問契約は、本件コンソーシアムの一員となって入札に参加するか否かのアドバイス・情報提供を投資家に行うことにその本旨がある。
そして、コンソーシアムの編成は、被告三井投資顧問及び被告三井不動産の判断に委ねられており、投資家を本件コンソーシアムに参加させる義務はなく、また、投資家も被告三井投資顧問と投資顧問契約をしたからといって本件コンソーシアムに参加する義務はない。締結業務及び資産管理業務は、入札管理業務、デューデリジェンス業務の結果、本件コンソーシアムの一員として入札し、落札した場合に初めて行われるものである。したがって、本件投資顧問契約を締結したからといって、締結した投資家が必ず本件コンソーシアムの一員に選ばれ、入札できるわけではない。締結業務等は、コンソーシアムに編成された投資家と、被告三井投資顧問とが別途締結する入札契約の内容であって、念のため重複して投資顧問契約の内容の一部となっているにすぎない。被告三井不動産らが、入札管理業務等を行った結果、協議が整わず、整わないことにやむを得ない事由があって投資家を本件コンソーシアムの一員に編成しなかった場合は、投資家が本件コンソーシアムの一員に編成されなかったそのことにより、本件投資顧問契約は、当然にその意味を失い、終了することが当事者間で合意されているから、右事由の発生により本件投資顧問契約は、当然に終了し、そうでなくても本件通知により終了した。
なお、本件投資顧問契約は、委託者の利益のために一方的な忠実義務を負担するものではなく、いわゆるアレンジャーとしての性格を有するものである。
(二) 原告らの本件コンソーシアムへの不参加
本件入札では、入札者はそれぞれ希望条件(コメント)を付することができるが、その根幹に関わる事項について付された条件は存在しないものと扱われるとされていたので、一見条件を自由に付することができるようにみえる。しかし、実際には、入札者の決定には、このコメントも考慮され、特にスケジュールどおりの取引の実現可能性、確実性がコメントから危ういとされれば、落札できない可能性が高くなる。そこで、落札決定にあまり不利にならない範囲で、詐害行為取消権や、被告ランディックの法的整理手続における否認権行使等のリスク回避のためにいかなる条件を付すことができるかが課題となっていた。原告らが主張するような広範な条件を付すことができることはないし、被告三井投資顧問は、そのような説明を行っていない。
ところが、原告らは、平成一一年二月一三日の最終的な入札条件の提示において、<1>最高評価見積額において入札するが、評価見積に影響を与える可能性のある事情一六項目を挙げ、実際の買受価格はこれによって決定(減額)する、<2>売主側から提示されている売買契約書に記載されている事項以外の事項にもさまざまな表示と保証を求め、これを買取りの条件とする、<3>原告らの社内手続の厳格な履践を条件とする、<4>入札付帯条件である雇用問題につき本件コンソーシアムの投資家の平等負担を拒否し、一定額以上の負担をしないことを約束することを入札の条件にするなど、売主側から提示されていた入札条件と抵触する条件や入札までには物理的に不可能な条件を掲げた。
そして、同日、被告三井投資顧問が、原告らの入札条件が被告ランディツク側の提示している条件と合致しないなどとしてその変更を求めたにもかかわらず、原告らは、前記の入札の根幹に関わる条件の不一致を十分認識した上で、最終回答において、原告らの入札条件を守ることにつき被告三井投資顧問が保証することを求めるという実質的な拒否回答を行った。翌一四日は日曜日であり、この時期になっての調整は不可能であることから、被告三井不動産らは、原告らを本件コンソーシアムに参加させて入札に臨むことは入札条件に合致しない入札をすることとなり、本件不動産を含むすべての物件が落札不能となると判断し、原告らを本件コンソーシアムに編入しないこととした。これは、前記の本件投資顧問契約の終了事由に当たるから、同契約は平成一一年二月一五日をもって終了した。 以上のとおり、入札条件に原告らが同意しなかったことが、被告三井不動産らが原告らを本件コンソーシアムに参加させなかった唯一の理由であり、被告三井不動産らは、最大限の努力をしたのであって、原告らを本件コンソーシアムに参加させなかったことについて、被告三井不動産らが原告らから責められる筋合いはない。
なお、被告三井不動産らは、原告らに代わって投資家となる者として、急ぎ被告三井不動産を充てることとし、原告らからのクレーム等を考慮して、入札価格は原告らの提示額と同額として、入札に参加した。
(原告らの主張)
(一) 原告らには、本件投資顧問契約につき、債務不履行などの解除事由はないから、被告三井投資顧問が本件通知によってした本件投資顧問契約の解除は無効であるし、当然の終了も認められない。
被告は、原告らが提示した条件が入札を危うくするものであったために入札から排除した旨主張するが、被告三井不動産が実際に入札した際に提示した条件及び右売買契約書には、原告らが提示したのと同様の条件が記載されている。したがって、原告らの示した条件には問題はない。原告は、被告三井投資顧問から、本件入札には相当広範な条件を付すことが認められると説明されたので、平成一一年二月一三日に、相当と考える最終条件を提示した。被告三井投資顧問は、原告らが提示した売買価格が低く落札できないと指摘し、また、原告らの入札条件が被告ランディック側の条件と合致しないなどとしてその変更を求めてきたので、同日、原告らは、被告三井投資顧問の調整に期待する旨の書面を送付し、翌一四日にも被告三井投資顧問の吉村専務と原告らの担当者二名が会談したが、被告三井投資顧問に契約解除の意図をうかがわせるような言動はなかったのである。
(二) 被告三井不動産らのいう終了事由への反論
被告三井不動産らは、原告らが本件入札から排除されたことをもって本件投資顧問契約が終了ないしは解除されたと主張するが、原告らは右契約の本件通知によって入札から排除されたのであるから、被告三井不動産らの主張は論理矛盾である。
また、原告らの本件コンソーシアムへの参加が認められないことが本件投資顧問契約の終了事由ないしは解除事由であるとすると、契約の一方当事者である被告三井投資顧問自身が決定する「参加を認めない」という事実が契約の終了事由や解除事由となることになり不当である。また、自ら作出した事実を終了事由や解除事由とすることも民一三〇条の趣旨からして許されない。被告三井投資顧問は、投資顧問契約上、原告らが本件不動産を購入することができるよう最善の努力を払わなければならないのである。
2 争点2
原告らは、被告三井不動産らに対して、原告ら主張の損害賠償請求権を有するか。
(原告らの主張)
(一) 入札条件の不一致を口実とする入札からの排除
原告らを本件コンソーシアムから入札条件の不一致を理由として排除したことには、争点1で主張したとおり何らの理由もなく、右排除は、不当なものである。
(二) 秘密保持契約違反
被告三井投資顧問は、秘密保持契約に反して、原告らが提示した入札額を被告三井不動産に明らかにし、被告三井不動産はこれと同額をもって入札に参加して、落札者となった。被告三井不動産らは、被告三井投資顧問は被告三井不動産の代理人であり、被告三井投資顧問の締結した本件秘密保持契約の効力が被告三井不動産に及ぶと主張するが、本件秘密保持契約につき被告三井投資顧問が被告三井不動産を代理することについては何ら説明がなく、本件入札について、被告三井投資顧問が全責任を負って行うものと原告らは理解していたのであり、被告三井不動産らの主張は、民法九九条の顕名主義の原則からして認められない。
また、被告三井不動産らは、被告三井不動産と被告三井投資顧問が投資顧問契約を締結しているかのような主張をしているが、これは被告三井投資顧問が原告らの提示した入札額を被告三井不動産に開示することを正当化する理由にはならない。
原告らは、本件入札の全過程を被告三井投資顧問が行うことを前提に秘密保持契約を締結したのであるから、被告三井不動産に対しても、原告らから得た情報を被告三井投資顧問が漏えいしてよいことはない。
また、仮に被告三井不動産に投資顧問契約の効果が及ぶとしても、被告三井不動産らは、原告らから得た情報を原告らに損害を与えるような形で使用したのであるから、契約違反である。
(三) 損害賠償請求権の存在(不法行為、債務不履行)
(1) 右(一)、(二)の各行為は、被告三井不動産が、原告らに代わって本件不動産を取得することを企て、子会社である被告三井投資顧問から秘密保持契約によって他に漏らしてはならない原告らの応札条件を開示させ、更に被告三井投資顧問をして原告らとの投資顧問契約を解除させたものであり、これは、正当に保護されるべき原告らの契約上の地位を不当に侵害する共同不法行為である。
仮に不法行為でないとしても、右(一)の行為は、被告三井投資顧問の本件投資顧問契約上の義務に反する行為であるから、被告三井投資顧問には、投資顧問契約上の債務不履行が存在する。
(2) 原告らは、被告三井不動産らによって、入札の直前になって入札から排除され、本件不動産を取得する機会を奪われた。また、本件不動産の入札には、他の機関投資家も参加しており、原告らはこれら機関投資家の面前でいわば恥をかかされ、しかも本件不動産を取得すれば得られたであろう利益獲得の機会も失ったのである。これらにより、原告らの信用は著しく毀損され、その損害額は五〇億円を下らない。
(被告三井不動産らの主張)
(一) 投資顧問契約違反について
原告らが本件コンソーシアムに編成されなかった理由は、争点1で述べたとおりであり、被告三井不動産らが責められる筋合いではない。
(二) 秘密保持義務違反について
(1) 本件入札の入札参加資格を有する被告三井不動産は、被告三井投資顧問に代理権授与を含む本件入札に関する業務を委託した。したがって、本件投資顧問契約は、情報収集、デューディリジェンスなど被告三井投資顧問が自ら行う投資顧問業務と、入札主催者と入札条件について交渉したり、投資家からの本件コンソーシアムの編成の申込を受け付け、これを判断して組成した上入札することなどの被告三井不動産の委託を受けて行う代理行為とが混在した業務委託契約である。よって、これに関連して締結された本件秘密保持契約の効力は、被告三井投資顧問の業務のうち、右代理業務については、本人である被告三井不動産にも及ぶ。
仮に、原告らに対する「顕名」がないとしても、被告三井投資顧問が本件において入札管理業務を行いうるのは、入札資格のある被告三井不動産を代理して行うこと以外あり得ず、これは原告らも知悉していたものであるから、民法一〇〇条但書の適用がある。
(2) また、本件コンソーシアムを編成するかどうかについての情報である、参加希望者についての情報及び入札希望価格など入札情報については、前記の代理業務上入手した情報であり、被告三井不動産、被告三井投資顧問双方が有する秘密情報であるから、情報の漏えいとはいえない。
(3) また、原告らを入札に参加させることができないとして、その代りの投資家である被告三井不動産に入札額をアドバイスすること、及びその場合の入札額が原告らの入札額であったことは、そもそも秘密の漏えいとはいえない。
(三) 損害賠償請求権の存在について
否認ないし争う。
3 争点3
被告三井不動産は、被告ランディック及び被告ランディックビルディングに対し、優先的に本件不動産を買い受ける権利を有していることを確認する訴え(以下「本件優先的買受権確認の訴え」という。)について、確認の利益が原告らに存在するか。また、右利益が認められる場合、前記の権利の存在が認められるか。
(原告らの主張)
争点1で主張したとおり、本件投資顧問契約は継続しており、被告三井不動産は本件入札において落札者となったから、被告三井不動産は、被告ランディック及び被告ランディックビルディングに対し、原告らのために、優先的に本件不動産を買い受ける権利を有しており、原告らはその確認を求める利益を有する。
(被告三井不動産らの主張)
(一) 本件投資顧問契約の終了
本件投資顧問契約が終了しているのは争点1で主張したとおりである。
(二) 優先買受権の不存在
本件入札は、被告ランディックが売却義務を負わない特殊なものであり、特に本件不動産は被告ランディックビルディング所有の物件であり、入札主催者の被告ランディックには売却権限もなかったから、落札しても、所有者の承認が得られた場合は買い受けることができる程度の意味しかない。実際にも、本件不動産は、所有者である被告ランディックビルディングの売却の承認が得られず、本件コンソーシアムは、買い受けることができなかった。したがって、被告三井不動産は、本件不動産を被告ランディック及び被告ランディックビルディングから優先的に買い受ける権利を有していない。
(被告ランディックの主張)
(一) 本案前の答弁
(1) 原告らの本件優先的買受権確認の訴えは、他人間の法律関係についての確認を求めるものであるところ、他人間の法律関係についての確認の訴えにつき、原告に当事者適格ないし訴えの利益が認められるためには、原告が右他人間の法律関係について法律上の利害関係を有していることが必要である。
しかし、原告らは、原告らと被告三井不動産との間に何らかの法律関係があることの主張、立証をしていないし、また、被告三井不動産が被告ランディックに対して本件不動産についての優先的買受権を有することが訴訟上確認されれば原告らにおいて自らの法的地位の安定が得られることについても、何ら具体的な主張をしていない。
(2) 仮に右の点を措くとしても、被告三井不動産らが主張するとおり、原告らが原告らと被告三井投資顧問との間に存続していると主張する投資顧問契約が現時点において存続していると認めることはできない。
(3) よって、被告三井不動産と被告ランディックの法律関係について原告らに法律上の利害関係があることを認めることはできないから、本件優先的買受権確認の訴えは却下されるべきである。
(二) 本案の答弁
原告らの主張は否認する。
本件の入札において、被告三井不動産は落札者となったが、入札の条件として、被告ランディックは、入札後、所有者の意向などを勘案して不動産の一部を取引の対象から除外することができるとされており、実際に本件不動産は、その所有者である被告ランディックビルディング及び被告ランディックビルディングの親会社である長銀の同意が得られなかったため売却できなかった。よって、被告三井不動産は、被告ランディックに対して本件不動産を優先的に買い受ける権利を有しない。
(被告ランディックビルディングの主張)
(一) 本案前の答弁
本件優先的買受権確認の訴えは、確認を求める権利の内容が不明確であり、また被告ランディックの主張(一)(1) のとおり、訴えの利益ないし原告適格を欠くから却下されるべきである。
(二) 本案の答弁
被告ランディックの主張(二)に同じ。
第三争点に対する当裁判所の判断
一 争点1について
1 原告らが本件投資顧問契約の存在確認を求めているのに対し、被告三井不動産らは、本件投資顧問契約は、平成一一年二月一五日限りで終了している旨主張するので、まず、本件投資顧問契約が結ばれた趣旨、内容等について検討するに、前記前提となる事実に証拠(甲一の1及び2、二の1及び2、四の1及び2、五の1及び2、六の1及び2、七の1及び2、八の1及び2、九の1及び2、一〇、一三の1及び2、乙一、二の1及び2、四、五の1及び2、六、七、証人冨川秀二、証人ホアン・イグナシオ・ルイス・デ・アルダ・モレノの各証言)を総合すると、以下の事実が認められる。
(一) 平成一〇年一〇月ころ、長銀が破綻したことに伴い、その子会社である被告ランディック及びその関連会社の経営は極めて困難となったため、被告ランディックは、被告ランディック及びその関連会社の所有する不動産を売却することを計画し、同年一二月一八日に、本件ポートフォリオについて、平成一一年二月一五日に本件入札を行うことによって買手候補者を決定し、売却することを発表した。本件不動産は、被告ランディックの関連会社である被告ランディックビルディングの所有であった。
本件入札においては、被告ランディックから指定された機関投資家が入札を行うが、被告ランディックは、入札価格のみならず、入札者から出される個々の条件を考慮して、自由に落札者を決定することができる上、落札者に対して個々の不動産を売却をしないことや、本件ポートフォリオからいくつかの不動産を除外することもあるとされ、本件ポートフォリオのうち、被告ランディックの関連会社である被告ランディックビルディング、エル都市開発株式会社の所有していたプール2に分類された物件(本件不動産もこれに該当する。)の売却には、これら所有者の承認が必要となるとの条件が付されていた。
(二) 被告三井不動産は、これより前の平成一〇年九月ころ、本件入札に関する情報を入手し、被告三井投資顧問に委託して、本件入札に参加する資格を得るための折衝や働きかけを行った結果、被告ランディックから本件入札への参加を許された機関投資家三社のうちの一社に指定された。右指定を受けた被告三井不動産は、本件ポートフォリオの入札に参加するには巨額の資金が必要であったことから、投資家に呼びかけて本件入札に参加するためのコンソーシアムを編成しようと考え、その業務を被告三井投資顧問に委託した。
被告三井投資顧問は、海外を中心とした投資家に打診するなどして、コンソーシアムに参加しそうな複数の会社を選び出し、平成一〇年一二月から平成一一年一月にかけて、本件コンソーシアムへの参加を呼びかけた。原告バンコ・サンタンデールも呼びかけの対象になった一社であり、被告三井投資顧問から右原告に案内書(甲一の1、2)が送付された。右案内書には、長銀や被告ランディックの説明、本件ポートフォリオの説明のほか、被告三井不動産が本件入札に参加する三社のうちの一社に選ばれたこと、入札にはコンソーシアムを編成して臨むこと、この呼びかけに応じた各投資家に対しては、被告三井投資顧問が入札管理やデューデリジェンス等の業務を有償で行うことなどが記載されていた。
(三) 原告バンコ・サンタンデールは、スペインに本店を置いて銀行業を行う会社であり、世界各国で不動産投資を行うなど世界でも有数な銀行であるが、日本において不動産投資を行った経験はなかった。しかし、前述の被告三井投資顧問からの打診によって、日本の不動産に投資することを前向きに検討することにし、予め被告三井投資顧問に連絡した上、原告バンコ・サンタンデールの担当者であるホセ・マリア・カルバーリョ(以下「カルバーリョ」という。)及び原告ラ・ウニオンの担当者であるホアン・イグナシオ・ルイス・デ・アルダ・モレノ(以下「ホアン」という。)の両名が平成一一年一月二〇日に来日した。
(四) 翌二一日、カルバーリョとホアンは、原告バンコ・サンタンデールの日本支配人である相原英樹とともに、被告三井投資顧問の冨川秀二取締役法人営業部長(以下「冨川部長」という。)、吉村慎治専務取締役(以下「吉村専務」という。)と面談した。その際、カルバーリョらは、原告らが丸の内又は大手町の不動産投資によって日本市場に参入することや不動産投資によって年五パーセントの利益を挙げることに関心を持っている旨を伝え、これに対し、冨川部長らは、カルバーリョらに対し、本件ポートフォリオの中の本件不動産及びドイツ銀行ビルを投資対象として紹介した。カルバーリョらは、紹介された物件のうち、特に本件不動産に興味を持った。
また、冨川部長らは、カルバーリョらに対し、案内書(甲一の1、2)に基づいて、被告三井投資顧問が、本件コンソーシアムに参加する者のために、投資顧問契約を締結した上で、有償で、入札管理業務、デューデリジェンス(事前調査・情報提供)業務を行い、落札後は、契約締結業務、資産管理業務を行うことになっていることを説明した。右案内書のうち、本件投資顧問契約について説明した部分には、本件投資顧問契約の内容となる入札管理業務には、投資希望者を募って、本件ポートフォリオ全体を落札できるようにコンソーシアムを編成することや最も望ましい入札価格戦略を行うことなどが例示されていた。
(五) 右会談後、カルバーリョらは、原告バンコ・サンタンデールが本件入札に参加することを検討するために被告三井投資顧問から情報を提供してもらうことにし、平成一一年一月二二日、原告バンコ・サンタンデールと被告三井投資顧問との間で、本件秘密保持契約を締結した。この契約は、本件ポートフォリオ及び本件入札に関して、被告三井投資顧問から原告バンコ・サンタンデールに伝えられた情報及び原告バンコ・サンタンデールから被告三井投資顧問に伝えられた情報を互いに善良な管理者の注意でもって扱い、相手方から文書による同意を得ない限り、その情報の全部又は一部を第三者に開示しない義務を互いに負うことを内容とするものであった。
(六) 原告らは、同月二七日ころ、被告三井投資顧問に対して、原告らは本件コンソーシアムに加わって本件入札に参加したい、ついては、被告三井投資顧問が、有償で、本件入札のために、入札管理業務、デューデリジェンス業務、落札後の契約締結業務、資産管理業務を行うことを承諾する旨を伝え、ここに原告らと被告三井投資顧問との間で本件投資顧問契約が締結された。
(七) 平成一一年二月三日、被告ランディックは、入札資格のある機関投資家三社に対し、入札の条件や方法を定めた「入札のご案内」(乙一)を提示した。そこで冨川部長は、これを原告らに送付したが、これには、本件入札の対象となる本件ポートフォリオは、いずれも賃貸用不動産であり、複数の不動産により構成されるプール1とプール2から成ること、入札希望者は、<1>定められた様式による入札書、<2>入札者のコメントを書き込んだ不動産一括売買契約書案、<3>ビル・マネジメント事業等の引き取り・提携等に関する提案書を、同年二月一五日午後三時までに被告ランディック宛てに必着するように提出することによって入札に参加すること、右のうち<2>の不動産一括売買契約書案は、被告ランディックが作成した契約書案を基本とし、これに入札者が変更、削除又は追加を希望する事項(コメント)があれば、当該事項を書き込んだ上で提出すること、ただし、売買代金はクロージング時までに全額が売主に支払われること、賃貸借関係はすべて買主に承継されること、売買は現状有姿で行い、実測、境界確定はしないことや売主の表明及び保証に関する条項についてのコメントは認めないこと、また、被告ランディックは、入札者の個別入札額、プール入札額、総合計入札額、売却スケジュール実現可能性・確実性、不動産一括売買契約書案に対するコメントの内容等を総合勘案して落札者を決定するが、落札者は両プール合わせて一社とすること、落札者は、不動産一括売買契約書案及びそれに対する落札者のコメントに定められた内容を基本的条件として、落札決定通知の受領後一か月以内を目途に、不動産一括売買契約を所有者との間で締結し、本件ポートフォリオに属する個別不動産を購入するものとするが、プール2に属する個別不動産については所有者の意向、入札額の客観的妥当性等の諸般の事情を勘案した結果、やむを得ない事由があると認める場合には、個別不動産の一部を本件取引の対象から除外することがあり、かかる措置に対して落札者は異議を述べることができないことなどが記載されていた。
2 右認定したところに基づき判断するに、本件投資顧問契約は、甲第一号証の1、2の案内書に基づき、被告ランディックが平成一一年二月一五日に実施する本件ポートフォリオについての本件入札に、被告三井不動産が入札者となって参加するに当たり、原告バンコ・サンタンデールが本件コンソーシアムに組み込まれ、その上で本件コンソーシアムの一員として本件入札に参加することを目的として、締結されたものと認めるのが相当である。すなわち、本件投資顧問契約においては、被告三井投資顧問が、本件コンソーシアムに参加しようとする者に対して、入札管理業務、デューデリジェンス業務、落札後の契約締結業務、資産管理業務を有償で行うことが契約内容になっていたのであるが、これらはいずれも、本件ポートフォリオに対する本件入札を前提としたものであることが明らかである。デューデリジェンス業務も本件ポートフォリオの不動産に関するものであり、本件ポートフォリオを離れて存在するものではない。
しかるところ、前記前提となる事実のとおり、被告三井投資顧問は、平成一一年二月一五日の本件通知によって、原告らの代理をすることを終了させる旨の意思表示をしており、これは、つまるところ、本件コンソーシアムに原告らを参加させない旨の意思表示と解されるし、原告らの主張によっても、原告らが本件入札から排除される形で本件入札が実施されたというのである。そうすると、本件コンソーシアムに原告らを参加させなかったことが違法不当といえるかどうかはともかく、平成一一年二月一五日の本件入札期日の終了とともに、本件投資顧問契約の内容のうち入札管理業務、デューデリジェンス業務は意味を失ったものといわざるを得ず、また、本件コンソーシアムに原告らが組み込まれていない以上、本件投資顧問契約の内容たるその余の業務、すなわち契約締結業務、資産管理業務も原告らにとって意味のないものとなったというべきである。
なお、原告らは、本件コンソーシアムへの参加拒絶という事実は、被告三井不動産らが作出したものであるから、これをもって本件投資顧問契約が終了するとするのは不当であり、民法一三〇条の趣旨からしても許されないなどと主張する。しかし、本件コンソーシアムに投資家を参加させる義務はなく、本件コンソーシアムに参加させないまま本件入札期日を迎える以上、本件投資顧問契約を継続することが無意味なことは前述のとおりであるから、本件通知をしたことをとらえて被告三井不動産らが条件成就を妨げたとみることはできない。
3 したがって、本件投資顧問契約は、被告三井投資顧問の本件通知によって、そうでないとしても、本件コンソーシアムに原告らが組み込まれることなく本件入札期日が終了したことによって終了したものといわざるを得ない。
原告らの本訴請求のうち、原告らと被告三井投資顧問との間になお本件投資顧問契約が存続していることの確認を求める部分は、理由がないことに帰する。
二 争点2について
1 原告らは、被告三井不動産らが原告らを本件入札に参加させなかったこと、被告三井投資顧問が被告三井不動産に対して原告らの本件不動産に対する入札価格を漏らし、この価格で被告三井不動産が本件入札で入札したのは、被告三井不動産らの共同不法行為であり、そうでないとしても、被告三井投資顧問には本件投資顧問契約についての債務不履行があるとして、損害賠償を請求している。
そこで、まず本件秘密保持契約の違反の点について判断するに、前記一で認定した事実、殊に、本件入札に参加し得るのは被告三井不動産であり、被告三井不動産は、本件ポートフォリオの入札に参加するには巨額の資金が必要であったことから、投資家に呼びかけて本件入札に参加するためのコンソーシアムを編成しようと考え、その業務を被告三井投資顧問に委託したこと、被告三井投資顧問から原告バンコ・サンタンデールに送付された案内書(甲一の1、2)には、長銀や被告ランディックの説明、本件ポートフォリオの説明のほか、被告三井不動産が本件入札に参加する三社のうちの一社に選ばれたこと、入札にはコンソーシアムを編成して臨むこと、この呼びかけに応じた各投資家に対しては、被告三井投資顧問が入札管理やデューデリジェンス等の業務を有償で行うことなどが記載されていたこと、本件秘密保持契約は、本件ポートフォリオ及び本件入札に関して、被告三井投資顧問から原告バンコ・サンタンデールに伝えられた情報及び原告バンコ・サンタンデールから被告三井投資顧問に伝えられた情報を対象にするものであることなどに照らすと、被告三井投資顧問は、被告三井不動産が本件入札に参加するために、コンソーシアムを編成するが、その業務の一部又は全部を被告三井不動産に代わって行うものであることは明らかであるし、そのことは、原告らに対して、初めから明らかにされており、原告らもこれを承知していたものであるといわざるを得ない。したがって、原告らから被告三井投資顧問に伝えられた本件入札に関する情報は、当然に被告三井不動産に伝えられることが初めから予定されていたものというべきである。なぜなら、最終的に本件コンソーシアムを編成し、本件入札に参加するのは被告三井不動産なのであるから、本件コンソーシアムにどの投資家を組み込むかを決めるのは被告三井不動産であり、そうである以上、どの投資家がどのような条件でコンソーシアムに参加しようとしているのかを被告三井不動産は知る必要があるからである。そうだとすると、被告三井投資顧問が原告バンコ・サンタンデールの予定入札価格等を被告三井不動産に知らせたこと自体は、本件秘密保持契約に何ら違反するものではないというべきである。これをもって、不法行為に当たるとする原告らの主張は採用し難いものというべきである。
2 次に、被告三井不動産らが原告らを本件コンソーシアムに組み込まず、そのことにより、本件入札から原告らが排除されたことは、被告三井不動産らも認めるところであるので、被告三井不動産らが原告らを本件コンソーシアムに組み込まなかったことの是非について検討するに、証拠(甲四の1及び2、五の1及び2、六の1及び2、七の1及び2、八の1及び2、九の1及び2、一三の1及び2、乙一、二の1及び2、四、五の1及び2、六、七、証人冨川秀二、証人ホアン・イグナシオ・ルイス・デ・アルダ・モレノの各証言)に弁論の全趣旨を総合すると、本件投資顧問契約が成立した後、被告三井投資顧問によって本件通知がされるまでの経緯は次のとおりであったと認められる。
(一) 原告バンコ・サンタンデールのカルバーリョは、平成一一年一月二八日付で、被告三井投資顧問の冨川部長に対し、本件不動産を買い受ける条件について、仮提案という形で文書(以下「原告仮提案」という。)を作成し、ファックスで送信した(甲四の1、2)。冨川部長は、この仮提案を見て、原告らの条件には一見して難しいものがあると思ったが、これから被告三井投資顧問と被告ランディックの双方が弁護士を立てて入札条件を交渉することになっていたため、原告らの希望としてこれを受け取った。
なお、被告三井投資顧問は、本件不動産について、同年一月末ころまで原告ら以外の投資家とも交渉を行っていたが、同年二月はじめころ、原告らを優先することとした。
(二) 被告三井投資顧問は、被告ランディックと入札条件、不動産一括売買契約書案などについて交渉を行ったが、平成一一年二月三日、被告ランディックによって「入札のご案内」と題する書面が本件入札に参加する各社に配布され、具体的な入札の条件や方法が明らかにされた(詳細は、前記一の1の(七)のとおり)。被告三井投資顧問は、これに英文の訳文を付けて、原告らを始めとする投資家に送付し、被告ランディックの入札条件について理解を求めた。その結果、原告バンコ・サンタンデールを除く投資家からは入札条件を承諾する旨の回答が得られた。
(三) 被告三井投資顧問の冨川部長は、同年二月一二日、原告らの弁護士事務所を訪れ、被告ランディックの示した入札条件を説明した。しかし、翌一三日、原告バンコ・サンタンデールのカルバーリョからは、本件入札に対する最終提案という形のファックス(甲五の1、2。以下「原告最終提案」という。)が冨川部長に送信されてきた。右の最終提案には、原告バンコ・サンタンデールの本件不動産に対する最高評価見積は、二六〇億円であるが、評価見積に影響を与える可能性のある事情として一六項目を掲げており、この項目のいかんによっては実際の買受け価格を減額すること、被告ランディックから示された不動産一括売買契約書案に記載された以外の事項についても様々な「表示と保証」を求め、これを買取の条件とすること、買取には、原告バンコ・サンタンデールの執行委員会と取締役会が満足して取引を正式に承認すること、原告バンコ・サンタンデールの取締役等には、法的及び財務的デューデリジェンスを含むデューデリジェンス調査をするために。本件不動産に関する帳簿、勘定、記録、契約及び書類のすべてに対し、通常の営業時間内に、十分なアクセスが許されるものとし、デューデリジェンス項目の包括的なリストは、原告バンコ・サンタンデールが必要と考えるときに被告三井投資顧問に送ることなどが記載されており、原告仮提案とほぼ変わらないものであった。なお、評価見積額に影響を与える可能性のある一六項目の中には、クロージングの日までに、一〇年物日本国債の利率や同等の建物の市場賃料に重大な変動があること、現存する賃貸借契約の約束を終了させる通知があることなどが含まれていた。
(四) そこで、冨川部長と吉村専務は、同月一三日(土曜日)、ホアン及び原告バンコ・サンタンデールの法律顧問であるフリオ・ベローゾ・カーロ(以下「フリオ」という。)と東京の帝国ホテルで会談した。右会談は、午前一〇時ころから午後四時ころまで断続的に続けられ、この会談の中で、冨川部長らは、ホアンらに対し、原告最終提案に示された条件は、被告ランディックが示している入札条件と抵触しており、最終提案に示されたコメントを付しても、被告ランディックからは認められないであろうこと、入札条件と抵触するコメントを付けると入札上不利となるので他の投資家が了解している入札条件に同意してもらいたいことなどを説得した。これに対し、ホアンは、説明は一応分かったから本部とも連絡して確認の上ファックスで返答する旨回答した。
冨川は、右会談が終わった後、念のため、ホアンに対し、被告三井不動産が入札しようとしている入札条件に原告バンコ・サンタンデールが不承知のままで、入札し、落札した場合、被告三井不動産らは原告に対して非常に危険な立場に置かれることになること、原告らの申し入れている条件では、実際の審査の前に入札から閉め出される可能性があること、今から原告バンコ・サンタンデールに代わる投資家を捜す時間はないことから、被告三井不動産らが提案している入札条件に同意してほしいことを伝える趣旨の文書(甲七の1、2)をファックスで送った。右文書には、被告三井不動産が実際に本件入札に用いる入札書類(乙六)が添付されており、これには入札に必要な不動産一括売買契約書案(被告三井不動産の入札条件がコメントとして付されているもの)が添付されていた。
(五) 翌一四日朝、吉村専務は、帝国ホテルに赴き、ホアンとフリオと朝食をともにしながら会談したが、その際、フリオは、甲第八号証の1の回答書を吉村専務に交付した。これには、被告ランディックに対する申し出の条件に関しては不承知であること、ただ、被告三井投資顧問が提案している条件が、原告最終提案に示されている原告バンコ・サンタンデールの立場を危うくするものでない限りは、それに反対はしないこと、原告バンコ・サンタンデールとしては、被告三井投資顧問がしようとしている決定については、同原告の利益が害されない限りはそれに従う旨が記載されていた。
(六) フリオからの回答書を受けた被告三井投資顧問の池田孝代表取締役社長、冨川部長、吉村専務、被告三井不動産の林洋太郎常務取締役らは、同月一四日の夜から翌一五日の未明にかけて対策を協議し、原告バンコ・サンタンデールが入札条件を承知しないまま同原告を本件コンソーシアムに入れて入札すると、原告らから責任を追及されるおそれがあるが、かといって、原告バンコ・サンタンデールの条件を付して入札すれば、本件ポートフォリオ全体の落札が難しくなり、落札できなかった場合には本件コンソーシアムに参加している原告バンコ・サンタンデール以外の投資家に損害を与えることになることから、原告バンコ・サンタンデールを本件コンソーシアムから外し、他の投資家に原告バンコ・サンタンデール分の穴埋めをしてもらうという結論になったが、入札期日の直前ということもあって結局被告三井不動産が原告バンコ・サンタンデールの代わりに本件不動産を引き受けることに決定した。本件不動産の入札価格については、原告らからの後の抗議を考慮して、原告らが示したのと同額の二六〇億円とした。
(七) その結果、被告三井投資顧問は、平成一一年二月一五日午前一一時ころ、原告らに対し、本件の入札に関し、原告らの代理をすることを終了する旨の本件通知をした。
そして、同日午後三時ころ、被告三井不動産は、被告ランディックに対し、入札書を提出した結果、本件ポートフォリオの落札者となった。その結果、被告三井不動産と本件コンソーシアムの構成員は、最終的に本件ポートフォリオの二四物件のうち一三物件を買い受けることができたが、本件不動産については、被告ランディックビルディングが売却に同意しなかったため、結局、被告三井不動産は、本件不動産を買い受けることはできなかった。
なお、被告三井不動産は、本件入札の入札条件ないし不動産一括売買契約書案へのコメントとして、被告ランディック及び他の不動産所有者が会社更生手続開始の申立てをする場合には、落札価格を基準に物件の買受人となる用意があること、被告三井不動産が落札した場合、不動産一括売買契約書案に対するコメントをふまえた契約条項及びビルマネジメント事業等の引取り、提携等に関する提案書に関する交渉を被告ランディックと行い、また、本件取引実行の支障となる事由があると被告三井不動産又は被告ランディックが考える場合には当該事由の除去等の協議を行うことなどを付した。
2 右認定したところによると、被告三井不動産らは、原告バンコ・サンタンデールが示した原告最終提案が被告ランディックの入札条件に抵触すると考え、原告最終提案を変更するよう求めたものの、原告バンコ・サンタンデールがこれに承知しなかったため、原告最終提案の条件を付さなければ落札後に被告三井不動産らが原告らから責任を追及される危険性があることや原告最終提案のまま条件を付せば本件ポートフォリオ全体を落札できないことによって他の投資家に不利益を与えるおそれがあるなどを考慮して、原告バンコ・サンタンデールを本件コンソーシアムから外して、本件入札に参加したものといえる。
しかるところ、原告最終提案は、そこに掲げられた一六項目いかんによっては買受価格を減額することを留保するものとなっており、これは、明らかに被告ランディックが示した売買代金はクロージング時までに全額が売主に支払われることという条件に抵触するものである。また、被告ランディックから示された不動産一括売買契約書案に記載された以外の事項について原告最終提案が求めた「表示と保証」の条件も被告ランディックの条件と抵触するものと考えられる。その上、原告最終提案には、買取には、原告バンコ・サンタンデールの執行委員会と取締役会が満足して取引を正式に承認することを買取の条件とすることが記載されているが、この手続をこれから行うのであれば、本件入札期日に間に合わないことは明らかであり、落札後に原告バンコ・サンタンデールの執行委員会と取締役会が承認しなければ買取をしなくてよいというのでは、落札後においても買うか買わないかの選択権を原告バンコ・サンタンデールの自由に任せるということになるものである。しだがって、原告最終提案のような条件をコメントとして付して入札した場合、被告ランディック側が入札価格だけでなく入札者から出される個々の条件を考慮して、自由に落札者を決定することができる本件入札にあっては、被告三井不動産が本件ポートフォリオを落札できる可能性が乏しくなると被告三井不動産らが考えたことには相当な理由があったものといえるし、他面、原告バンコ・サンタンデールの入札条件をコメントとして付さずに入札して落札した場合、落札者の被告三井不動産が原告最終提案に付された条件を引き受けさせられるおそれもあったといえる。フリオの回答書では、被告三井投資顧問が提案している条件が、原告最終提案に示されている原告バンコ・サンタンデールの立場を危うくするものでない限りはそれに反対はしないとか、被告三井投資顧問がしようとしている決定については原告バンコ・サンタンデールの利益が害されない限りはそれに従う旨が記載されていたのであり、原告バンコ・サンタンデールの不利益になる場合、買取を拒絶することが暗に示されていたからである。
そうしてみると、被告三井不動産らが最終的に原告バンコ・サンタンデールを本件コンソーシアムから外して本件入札に参加したことには、相当の理由があったものというべきである。なお、被告三井不動産らは、投資家に呼びかけて本件コンソーシアムを編成したのであるが、原告バンコ・サンタンデールとの間で本件投資顧問契約が締結されたことによって、当然に本件コンソーシアムに参加させるべき義務があったとはいえない。なぜならば、投資家に本件コンソーシアムへの参加を呼びかけて本件ポートフォリオを落札しようとした被告三井不動産らには、個々の投資家にとって有利な価格、条件で落札できるよう図るだけではなく、投資家全体の利益を図るため、各投資家と折衝し、条件等を調整して、落札できるような体制を作る責任もあったのであり、場合によってはある投資家を外して入札に臨むことも必要とされていたからである。
3 原告らは、被告三井投資顧問の事前の説明では、応札に際しては相当広範な条件を付すことが認められているとのことであったため、原告らは原告最終提案で示したような条件を提示したのであって、何ら責められるべき点はないと主張する。しかし、本件では、原告らが条件を提示したことが責められているのではなく、提示した条件に固執したことによって被告三井不動産らが本件コンソーシアムから原告バンコ・サンタンデールを外したことの是非が問題になっているのである。
また、原告らは、原告最終提案の条件は本件入札に当たって何ら支障となるものではなく、現に被告三井不動産が本件入札に際して添付し、事前に原告らにも提示した不動産一括売買契約書案(乙六。以下「被告契約書案」という。)にも、同様の条件が付されていたと主張する。なるほど、乙第六号証によれば、被告契約書案にも、売主が買主に対して開示した資料のうち売買代金の算定に影響を及ぼすものの内容が重要な点で事実と異なっていた場合や当該資料の開示後、その内容が重要な点で事実と異なることになったのにこれを平成一一年二月一四日までに買主に通知しなかった場合には、売主と買主は売買代金を調整すべく誠実に協議するものとするとの条項(二条二項)があり、また、被告契約書案の入札付帯条件には、「本件取引実行の支障となる事由があると弊社(被告三井不動産)または貴社(被告ランディック)が考える場合には当該事由の除去等の協議を行います。契約書の締結およびその他上記事項の合意に向けての両当事者の努力にもかかわらず、平成一一年三月三一日以前に締結および合意ができない場合には、弊社または貴社は全部または一部の物件について落札決定の辞退または取消を行うことができます。」との条項があることが認められる。しかし、被告契約書案にある売買代金の調整は、開示された事実と現実とが重要な点で異なる場合に行うとするもので、原告最終提案書のように、市場賃料や経済状況の変動により売買代金が変動するとする趣旨ではない。また、被告契約書案の付帯条件についても、甲第一一号証、第一二号証によれば、詐害行為取消権や否認権の行使、不動産に付された担保権者の意向など排除が困難な事由が生じた場合に買主側の立場を守るために付されたものと認められるのであって、被告契約書案の付帯条件に記載された「取引実行の支障となる事由」とは、詐害行為取消権や否認権が行使されるなど外部的事由を指すものと解され、単に買手側の取締役会の承認が得られないといった純粋に内部的な事由を指すものではなく、原告らが主張するように買手にフリーハンドを留保したものとは解されない。したがって、被告三井不動産らが被告契約書案の条件を付したからといって、原告最終提案の条件が本件入札に当たって何ら支障になるものではないとの原告らの主張は採用することができない。
4 原告らは、被告三井不動産が、原告バンコ・サンタンデールに代わって本件不動産を取得することを企て、子会社である被告三井投資顧問から原告らの応札条件を開示させ、更に被告三井投資顧問をして原告らとの投資顧問契約を解除させたものであると主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。被告三井不動産が本件不動産を取得したかったのなら、初めから本件不動産を原告らに紹介しないということができたのであるから、横取りしようとしたものとは解されないし、本件不動産の入札価格についても、原告バンコ・サンタンデールより被告三井不動産らの方が詳細な情報を持っていたはずであるから、あえて原告らの情報を漏らさせる必要もなかったのである。原告らの右主張は、採用することができない。
なお、前記認定の事実経過に照らすと、本件においては、原告らと被告三井投資顧問との間で入札条件について必ずしも十分に話し合うことができなかった点があるのは否めないところである。当事者間で十分に話し合うことができたならば今日のような問題は起きなかったかもしれない。しかし、被告ランディックの提示する入札条件が明らかとなったのが平成一一年二月三日であり、同月一五日の入札期日までにわずかな時間しかなかったのであって、当事者間で十分に話し合うことができなかったからといって、被告三井不動産らに不当な意図があったとは認め難いのである。
5 以上の次第であるから、被告三井不動産らが原告バンコ・サンタンデールを本件コンソーシアムから外したことには相当な理由があり、本件投資顧問契約に違反したとはいえず、また、被告三井投資顧問が原告バンコ・サンタンデールの入札条件を被告三井不動産に伝えたことも本件秘密保持契約に違反するものとはいえないから、被告三井不動産らのこれらの行為をもって不法行為とはいえないし、被告三井投資顧問の本件投資顧問契約上の債務不履行ということもできない。
したがって、原告らの被告三井不動産らに対する損害賠償請求は、その余について判断するまでもなく、失当といわなければならない。
三 争点3について
1 原告らは、被告三井不動産が被告ランディック及び被告ランディックビルディングに対し、本件不動産を優先的に買い受ける権利を有していることの確認を求めている。ここにいう「優先的に買い受ける権利」ということが何を意味するのかは必ずしも明らかではないが、要するに、被告三井不動産と被告ランディックらとの、原告らにとっては他人間の権利関係の確認を求めているものである。
2 ところで、他人間の権利関係の存否を確認する訴えは、他人間の権利関係を確認することによって、即時に原告の法律的地位の安定が得られる場合に限り、確認の利益を認めるのが相当であると解される。
しかるところ、被告三井不動産が被告ランディック、被告ランディックビルディングに対して本件不動産の優先的に買い受ける権利を有していたとしても、これによって、原告らが本件不動産につきどのような法律的地位を取得するのかについては、原告らは何ら具体的な主張、立証をしない。原告らの主張によっても、本件投資顧問契約や本件秘密保持契約は被告三井投資顧問との間で結ばれており、被告三井不動産との間になんらかの契約関係があったことはうかがわれないし、仮に被告三井不動産らが本件コンソーシアムから原告バンコ・サンタンデールを排除したことが不当であったとしても、それゆえに、原告らが本件不動産に何らかの権利を取得したということにもならない。原告らは、本件不動産に関する被告三井不動産と被告ランディック、被告ランディックビルディングとの法律関係を確認するについての確認の利益を欠くものといわなければならない。
したがって、原告らの本訴請求中、被告三井不動産が被告ランディック及び被告ランディックビルディングに対し、本件不動産を優先的に買い受ける権利を有していることの確認を求める部分の訴えは、不適法といわざるを得ない。
四 結論
以上の次第であるから、原告らの本訴請求中、被告三井不動産が被告ランディック及び被告ランディックビルディングに対して本件不動産を優先的に買い受ける権利を有していることの確認を求める訴えは、不適法であるから却下することとし、被告三井不動産らに対するその余の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大橋弘 裁判官 柴田秀 裁判官 野村武範)
別紙 物件目録<省略>